「プロ経営者」を呼ぶ前に、御社が今すぐ着手すべき「課長育成」の真実
プロ課長育成トレーナーの中西イーサンです。
名刺交換をするたびに、よく「どうして『課長』の育成なんですか?」と質問されます。
みなさんは「プロ経営者」という言葉を耳にしたことがあるでしょう。 生え抜きではなく外部から招聘され、どこの企業でも成果を出せる経営のプロのことです。(※自分が育った会社でしか成果を出せない人は、私はプロとは呼びません)
確かにプロ経営者を招聘するのは大事な選択肢です。
しかし、外部に頼る前に、社内でできる重要なことがあります。
それこそが「課長育成」です。
部長でも役員でも係長でもなく、なぜ「課長」が一番大事なのか。
当社は同じ300人のビジネスパーソンを対象にアンケート調査を実施しました。以下のQ1〜Q5は同一の300人に聞いたものですが、Q2とQ3はQ1で「ハズレ上司の経験がある」と答えた174人、Q5はQ4で「アタリ上司に恵まれた」と答えた252人が対象という、条件付きの設問です。
◾️ ハズレ上司の正体は「課長」だった
Q1:上司ガチャ(ハズレ上司)の経験はありますか?
YES:58%(174人)
NO:42%(126人)
Q2:誰に対してハズレ上司と感じましたか?(複数回答可)
課長・マネージャー:43.1%
係長・リーダー:28.7%
部長・本部長:20.7%
役員・経営者:13.8%
見事に「課長」がハズレ上司の第1位という結果になりました。
もちろん、これは課長個人の質が低いという話だけではありません。課長は部下の数が圧倒的に多く、接点が多いという構造的な事情もあります。それを踏まえても、影響の大きさという点で課長が無視できない位置にいることは間違いありません。
ハズレ上司を経験した174人は、こうした影響を受けています。
Q3:ハズレ上司によるあなたへの影響は?(ハズレ上司経験者174人が回答/複数回答可)
仕事のモチベーションが下がった:77.6%(135人)
転職・異動を考えた/実際にした:54.6%(95人)
心身の不調を感じた:43.7%(76人)
成長の機会を失ったと感じた:19.5%(34人)
特に影響はなかった:2.9%(5人)
モチベーションの低下だけでなく、半数以上が「離職」を意識しているという、会社にとっては致命的な大損失が起きています。
◾️ 「悪意なきハズレ上司」が再生産される仕組み
なぜ、このような事態が起きるのでしょうか。
多くの場合、担当や係長として優れた成果を出した人が課長に推薦され昇格します。
しかし、昇格した際に「課長とは何をする役割なのか」を具体的に伝えている企業が、一体どれほどあるでしょうか。
多くの場合、「背中を見て育つ」や「空気を読む」を期待されていて、「課長の定義」が曖昧になり各自の解釈に委ねられています。
その状態で部長は課長にマネジメントとしての成果を求めます。
すると、課長は自分なりに本を読んだり考えて、自分なりのマネジメントスタイルを構築していきます。
これが自己流マネジメントとなり、自動的に悪意なく上司ガチャが生まれる構造です。
つまり課長自身も、かつて誰かの「上司ガチャ」を引いた被害者である可能性が高いのです。定義を与えられないまま昇格した課長は、今度は自分が受けたのと同じ構造を、知らないうちに部下へそのまま配ってしまいます。これが、ハズレ上司が世代を超えて再生産されていく仕組みです。
さらに、現場でのヒアリングや観察から私が感じているのは、最もパワハラが起きやすいのも「課長から担当者」のラインだということです(この点は本アンケートの設問にはなく、データではなく経験則であることを申し添えます)。
どんなに優れた能力経験をもった担当者でも、心を痛めてしまってはその能力経験を活かすことはできません。
部長から課長に対するパワハラもありますが、課長はそれなりに能力経験を持った人なので、強い圧力があったとしてもある程度正面から対抗できます。一方で課長と担当者では圧倒的な能力経験のGAPがあります。
優れた課長であるほど、能力が低く経験の浅い担当者を見るとイラっとし、ついつい強い言葉を使ってしまいがちです。担当者は経験豊富な課長から強い言葉を言われたら、返す言葉がありません。
また、課長には平均10.6人の部下がいます。部長には平均2.0人の課長がいます。
(この数字は、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」における役職者比率(部長比率約3.8%・課長比率約7.7%)から算出した部長・課長の人数比、および学校法人産業能率大学総合研究所「上場企業の課長に関する実態調査」が示す課長1人当たりの部下数(平均10.64人)に基づく参考値です)
部下の人数が多いということは、課長の言動が会社全体に波及する範囲もそれだけ広いということです。会社全体に与える影響は、課長が圧倒的に大きいのです。
以上が私が「課長育成」にこだわる理由です。
◾️ では、どうすれば「アタリ上司」になれるのか
同じアンケートでアタリ上司についても、質問しました。
Q4:「良い上司に恵まれた」と感じた経験はありますか?
YES:84%(252人)
NO:16%(48人)
ハズレ上司を経験する人もいますが、アタリ上司を経験する人もちゃんといますし、部下は課長をみて比較しています。
Q5:アタリ上司のどんな行動が印象的でしたか?(アタリ上司経験者252人が回答/複数回答可)
自分の意見をきちんと聴いてくれた:64.7%(163人)
明確な方針・判断を示してくれた:49.2%(124人)
失敗を責めずにフォローしてくれた:48.0%(121人)
成果を正当に評価してくれた:42.5%(107人)
成長の機会を与えてくれた:37.3%(94人)
その他:2.4%(6人)
この結果を見れば、課長がやるべき行動は明確です。
部下の話を聴き、方針を示し、失敗をフォローする。これらを当たり前に実行できる人こそが、私の目指す「プロ課長」です。
一見すると簡単そうに見えますよね。しかし、実はこれができていない人が非常に多いのです。
「部下の意見を聴く」という重要性を、頭で理解するのは1秒でできます。しかし、それを日々の忙しい業務の中で、常に相談しやすい空気を作りながら体現するには、訓練が必要です。
御社の課長職のみなさんは、「頭でわかる」を「体現」できているでしょうか。
次回は、この「頭でわかる」と「体現できる」のギャップを埋めるための、具体的な訓練法について解説いたします。


