マネジメントが上滑りするたった一つの理由
──1on1で部下が本音を話さないのは、話し方のせいではない
普段は「話し方」や「言葉の使い方」について発信していますが、今日はあえてそれを書きません。
なぜなら、どんなに美しい話し方を身につけたとしても、その手前にある「重要な土台」ができていなければ、何の効果もないからです。
では、話し方の前にある最も重要なこととは何か。
それは、「自己開示(心を開くこと)」です。
人間は、「自分の価値観を開示してくれた人」にだけ、自分の心を開く生き物だからです。
価値観がわからない相手は「怖い」
例えば、こんな場面を想像してみてください。
初めて会った人から、いきなり「友達になってください」と言われたら?
最近知り合ったばかりの人から、「ビジネスパートナーになってください」と言われたら?
きっと、多くの人が身構えてしまうはずです。相手の価値観が分からない状態だからです。人はわからないものに対して、「もしかしたら騙そうとしているのかも」と自然な警戒心を抱きます。
心理学ではこれを「自己開示の返報性(自分が開示した分だけ、相手も開示し返してくれる現象)」と呼びます。飲み会や食事、イベントに行くのも、本質は「自分の価値観をお互いに開示する場」を創るためです。
同じ体験をした後、「相手がどう感じたか」を知ることで好感を抱く。実は、価値観の相性そのものよりも、「お互いに自己開示し合い、その違いも含めて尊重し合えている状態」こそが、好感や信頼を生むのです。
しかし、自己開示は誰にとっても怖いものです。無防備な自分をさらけ出して、否定されたり攻撃されたりしたら傷つくからです。
だからこそ、人は「まず自分をさらけ出してくれた人」に対して初めて、安心して自分の価値観を開示できるようになります。
スキルに頼る1on1の限界
この心理は、上司と部下のマネジメントの関係でも全く同じことが言えます。
もし上司が自己開示をしないまま1on1面談を行ったら、部下も絶対に心を開きません。結果として、当たり障りのない「上辺だけの会話」で終始してしまいます。
上司が心を閉ざしたまま、いくら「傾聴スキル」や「質問スキル」を駆使したところで、本質的な解決にはならないのです。マネジメントが上滑りする理由は、スキル不足ではなく、この順番を間違えていることにあります。
部下に自己開示を求める前に、まずは上司自身が自己開示をする。順番は、常に上司が先です。
明日からできる「自己開示」1on1のすすめ
例えば、1時間の1on1面談があるなら、以下のような時間配分を試してみてください。
最初の30分:上司の自己開示タイム
事前に「自己紹介シート」を用意しておきます。これは私が普段クライアントに提供している自己理解メソッド(動力マネジメント)の考え方をベースにしたもので、価値観・大切にしていること・過去の失敗談などをまとめたものです。それに基づいて上司が発表し、部下から自由に質問をしてもらい、誠実に答えます。
後半の30分:部下の価値観を聴くタイム
上司側がオープンになったのを確認してから、部下に質問をして相手の価値観を聴いていきます。
最近、プライベートと仕事でそれぞれどんなことが上手くいっていますか
あなたが人生で大切にしていることは何ですか
あなたはどんな瞬間に幸せを感じますか
10年後、どんな人生を歩んでいたら、あなたにとって理想的ですか
あなたの3年後の成果を、どんな指標で測りたいですか
その3年後の理想を実現する上で、今から解決するべき問題は何ですか
これらはあくまで基本の質問セットです。すべてを一度に使う必要はなく、その日の1on1のテーマや部下の状態に合わせて、2〜3個を選んで深掘りするだけでも十分効果があります。
こうした問いは、正解を評価する質問ではなく、部下の価値観そのものを引き出す質問です。上司が先にリスクを取って心を開いているからこそ、部下も安心してこの手の質問に本音で答えられるようになります。
先に上司がリスクを取って自己開示するからこそ、部下は安心して本音を話せるようになる。これこそが、真のリーダーシップではないでしょうか。
読者の皆さん。日頃の1on1面談で、あなた自身はどの程度、部下に自己開示ができていますか?
もし上司が自分の価値観を開示していないなら、その面談は上滑りに終わっている可能性が高いです。
お互いの大切な時間を有益なものにするために。ぜひ「上司からの自己開示」から始める面談を試してみてください。
(自己紹介シートのフォーマットにご興味のある方は、コメントで教えてください。)


